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親和中学校・親和女子高等学校神戸親和大学附属親和幼稚園
理事長メッセージ

新年度を迎えて

理事長   2023年度を迎えて、ご挨拶をと考えているうちにもう5月ということになりました。新しく園児・生徒・学生を迎え、保育・授業が始まったと思いきや、もう5月を迎えたという感じです。少し時期を失しましたが、新年度のご挨拶を申し上げます。よろしくお願い申し上げます。
  まず、今年になってショッキングなニュースを聞くことになりました。2022年度の出生数がとうとう80万人を割ったというニュースです。コロナ禍もあり、ある程度は予想されていたこととはいえ、現実にそうなってみると、改めて大きなショックを受けました。現在の12歳人口(中学入学時)が104万人、18歳人口が110万人であることを考えると、今後、12年、18年で約30万人前後減少するのですから、教育関係者(とくに私立学校関係者)にとって「80万人ショック」と言われるのも無理からぬことです。それこそ30年前には18歳人口が200万人を超えていたのですから、学校関係者にとって今の状況は、まさに「思考が止まる」ほどのものなのです。当事者である私には痛いほどその気持ちが分かります。ただ、私たちは「思考を止める」わけにはいきません。
  新年度を迎え、改めて今後の取組みへの基本的な考え方とアプローチについての私の考えを述べさせていただき、親和学園の教育と運営にご理解を得たいと思います。
(1)パーパスの明確化
  かのピーター・ドラッカーは、厳しい状況に直面したときは企業として「われわれの事業は何か。何であるべきか。」を考えるべきだと言っています(1)。私は教育機関としてこの問いを「われわれの教育理念は何か。そしてそのパーパスは何であるべきか」と言い換えることができると思います。とくに、変化の速い社会においては学校・大学が改めてその「パーパス」を明確化することは極めて重要だと考えます。けだし、ここで言う「パーパス」とは「存在意義」とか「存在理由」と意味で、しかも社会的な文脈で使われているものです。だから私はパーパスという概念を使うとき「社会的な存在意義・理由」という意味で使っています。
  私は、今の厳しい状況だからこそ私たちのめざす「パーパスは何か」と問うことが、これからの改善・改革の出発点になると考えています。たとえば、神戸親和女子大学は2023年度より男女共学の大学(神戸親和大学)に移行しましたが、そのパーパスの一つが、教員・保育士との不足という社会的な課題解決のために男性にも門戸を開くことで「市場の拡大」を図るとともに、大学の主要目的である「教員養成課程のさらなる深化」を図るというものでした。それが大学共学化のパーパス(社会的な存在意義)の一つでした。
  親和学園の設置する親和中学校でも、2024年度より時代に対応する3つのコース、すなわち「スーパーサイエンスコース」、「スティーム探究コース」、「グローバル探究コース」の3コースを開設します。ここでも建学の理念に基づきながら新たな社会の進化に対応するパーパスを明確にしたカリキュラムの構築を目指しています。
(2)フューチャー・バック思考からのアプローチの採用
  これまで、私たちは現在から未来を構想する、いわゆる「プレゼント・フォワード(present-forward)思考」(2)で種々の取組を企画・計画・実行して参りました。しかし、これほど変化が速く、不確実性の高い時代においては、5年先、10年先の社会や学校(教育)の在り方を想定し、そこから今後すべきことや取組むべきことを計画する思考。マーク・ジョンソンらのいう未来から現在を構想する「フューチャー・バック(future-back)思考」によるアプローチが有効だと考えています。さらに言えば、2つの思考法を適宜組み合わせていくアプローチも必要となります。2つの思考法に関連する印象深い文を2つ紹介します。
未来に焦点を当てるときは、思考の範囲を広げて遠くの未来を見よう。といっても、現在と関連づけられないような未来では遠すぎる。」(3)
未来とは、いつも半分ぐらいは見えているが、残りの半分はまだ誰にとっても暗闇の中にある。仮説を立て、その半分だけ見えている未来に果敢に分け入り、暗闇の中にある道なき道を進む者だけが、その先にある世界を本当に作り出していける。」(4)
  同じようなアプローチに見えますが、これらの言葉は、つねにlong-termな視点とshort-termな視点の2つの視点から種々の課題に取組んでいくことの必要性を説いた示唆に富むものと思います。
(3)協働&共創の文化を醸成する
  この厳しい状況と対峙し未来を切り拓くためには、教職員の協働&共創が必須となります。そういう協働&共創の文化を職場に醸成しなければと思います。いずれの業種の組織であれ、ある程度の協働&共創の文化はあると思いますが、今の厳しい状況を乗り越えるためには相当に高い水準の協働&共創が必要になります。
  ではどうやって醸成するのか。いくつかのアプローチがあると思います。最初に述べた組織のパーパスやミッションを明確化すること、そしてそれらを共有することが有効だと思います。もちろん、他にも教職員の処遇を良くすることや、職場間のコミュニケーションを密にすることも、それぞれ有効だと思いますが、一つ言えることは、今回の共学化で理解したことですが、そうした文化とは、トップダウンで出来るものではなく、教職員がパーパスを共有して、その実現のために協力して取組む(協働)過程において醸成されるということです。大学の共学化を通してパーパスは協働の源だと実感できました。こうした協働&共創の文化は、共学後の教育研究に必ず活かされるものと確信しています。
  パーパスについてさらに言うと、組織のめざすパーパスと教職員の個人的なパーパスが合致する場合、容易に協働&共創の文化が醸成されると思います。「パーパスの存在は意図的に行動する責任を意味する」(5)と言われるように、パーパスの存在自体が組織としてのパーパスと教職員個々人のパーパスが調和することにも役立つと思います。そして、この2つのパーパスの調和こそが今後の改善・改革の成否の鍵になると思っています。
(4)終わりに
  先に申しましたように、大学は2023年4月より男女共学の大学に移行しましたが、その結果と現状について、ご報告させていただきたいと思います。
  入試の結果については、お蔭様で、入学定員(385名)比で約1.2倍の467名の入学者がありました。男女比は、それぞれ159名と308名で、ほぼ1対2の割合でした。4つの学科にそれぞれ適正の男子学生が入学しましたが、中でも、教員・保育士志望の学生が190名強(内男子学生が約70名)あり、教員・保育士志望者の減少に対応するという共学化のパーパス(社会的な存在意義)の一つを叶えることができたと思っています。
  また、スポーツ教育学科、心理学科、国際文化学科にも、それぞれ期待した男子学生が入学しました。とくにスポーツ教育学科には、当然、スポーツクラブに加入希望の男子学生が多数入学したことで、強化クラブであるバレーボール部、剣道部、バドミントン部も活性化しています。ほかにも新たなクラブや同好会を創設したいとの希望も出ている状況で、大学としては喜んでいます。
  とにかく、男女共学になって、大学の雰囲気が大きく変わりつつあるのを実感しています。これまで以上に、元気で溌剌とした雰囲気の大学になってきています。教職員一同、彼女・彼らの期待に応えて、充実した大学生活が送れるように、全力で支援して参ります。
  親和中学校・親和女子高等学校についても、建学の理念を確認しながら時代の変化に柔軟に対応する教育の改善・改革に努めるべく、教職員が協働&共創して参ります。今後とも、親和学園の教育研究と運営にご理解とご支援を賜りますようお願い申し上げます。
  なお、大学附属の親和幼稚園、親和保育園及び千鳥が丘親和こども園(社会福祉法人親和福祉の会)については徐々に少子化の影響がでています。その教育・保育内容についても社会の変化に対応する新たなアプローチからの改善・改革が求められていると思いますが、そのことについては改めて詳しくご報告させていただきたいと思っています。
  終わりになりましたが、みなさまのご健勝とご活躍を祈念申し上げます。
(注)
(1)ピーター・F・ドラッカー著、上田惇生訳『マネジメント:課題、責任、実践(上)』
   ダイヤモンド社、2008年、95〜100ページを参照。
(2)マーク・ジョンソン&ジョシュ・サスケウィッツ著、福井久美子訳『フューチャー・バック思考』
   実務教育出版、2022年、参照。
(3)同上書、98ページ。
(4)三木谷浩史著、『未来力』文芸春秋、2023年、28ページ。
(5)ランジェイ・グラティ著、山形浩生訳、鵜澤慎一郎解説『DEEP PURPOSE』
   東洋館出版社、2023年、218ページ。

2023年 5月吉日 
学校法人親和学園
理事長  山根 耕平




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