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親和中学校・親和女子高等学校神戸親和大学附属親和幼稚園
理事長メッセージ

新年のごあいさつ

理事長   新年、明けましておめでとうございます。昨年は親和学園の教育研究・運営にご理解とご支援を賜りありがとうございました。今年もよろしくお願い申し上げます。
  さて、お蔭さまで親和学園は、明治20(1887)年に開学された親和女学校を創始とし、創立139年を、そして親和学園を母体とする神戸親和大学も創立60周年を迎えることができました。学園関係者はもとより多くの人々のご理解とご支援のお蔭であり、ここに学園を代表して心よりの感謝とお礼を申しあげます。
  さて、新年を迎えるに当たって、世界や社会の動向を概観しながら、改めて学園の未来を展望させていただきたく思います。
  1.世界の状況
  思い起こせば、校祖友國晴子は生徒わずか2名から親和女学校を再建し、明治・大正と激動の時代を生き抜き、現在の親和学園の礎を築きました。その建学の精神は、校祖自身による「誠実・堅忍不抜・忠恕温和」という校訓のもとに、今日まで脈々と継承されています。しかしながら、現代に目を向ければ、実にかつてないほど不安定な激動の時代を迎えています。
  終わりの見えない戦争・紛争、世界の国々で自国ファースト・権威主義やポピュリズムの台頭に伴う民主主義の衰退、気候変動により世界各地で頻発する自然災害等々、実に未来の読めない、いわゆるVUCA(変動性・不確実性・複雑性・曖昧性)の高い時代、コトラー的に言えば、“Ups and Downs”の激しい「乱気流の時代」になっています。
  一方で、テクノロジーの進歩、とくに生成AIの進歩は目覚ましく、今や「AI革命」の時代とも言われています。2020年11月にChatGPTを開発したOpenAI社のCEOであるサム・アルトマンは「(生成AIの)進化はなにものも止めることができない暴走列車である」と豪語しましたが、今や、私たちは、いや、社会全体がこの暴走列車に乗っている感があります。
  しかし、この「暴走列車」の行き先は、2極化しているように見えます。一方は、さまざまな学問分野で飛躍的な発展が見られます。世界の課題である気候変動についてもAIによる解明が期待されています。しかし他方において、この暴走列車の行き先が心配されています。現代の世界的な哲学者・歴史家であるユヴァル・ノア・ハラリによれば、AI(Artficial Intelligence)は「人工知能」ではなく「異質の知能(Alien Intelligence)」であり、単なるツールではなくすでに「行為主体」であると述べ、その暴走に警鐘を鳴らしています。ハラリの印象深い言葉を引用します。
  「私たちは自らの種を『ホモ・サピエンス』と名づけた――『賢いヒト』という意味だ。だが、どれだけその名に恥じぬ生き方をしてきたかは疑わしい。」
  さらに、日本の現況について言えば、少子化が加速度的に進行しています。2024年の出生数が68万人台であったことから、今後、10年間で約3割の児童が減少することになります。これは、ピーター・ドラッカーが言ったように「すでに起こった未来(the future that has already happened)」です。こうした少子化の未来を想定して、中央教育審議会の答申「知の総和」では「これから先の急速な少子化は、中間的な規模の大学が1年間で90校程度、減少していくような規模で進んでおり、定員未充足や募集停止、経営破綻に追い込まれる高等教育機関が更に生じることは避けられない。」と述べられています。実際、2025年と2026年に学生募集を停止する短期大学は45校に及ぶと言われています。共学化に踏み切る女子大学や募集停止する女子大学も、後を絶ちません。
  このように、大学(教育機関)をめぐる状況は誠に厳しく、しかも、マルクス・ガブリエルが言うように、いくつもの問題群(少子化・教員不足・経営困難等々)が絡み合った「ネステッド・クライシス(nested crisis)」の状況にあります。「教育は時に敏感である」と言われますが、こうした危機的な状況に対して私たちはどう対応するのか。この厳しい「レッドオーシャンの世界」の只中にいる教育機関として未来をどう切り拓いていくのか、私なりに展望してみたいと思います。お目通しいただければ幸いに存じます。
  2.今、求められる教育とは
  (1)教育の基底は人間存在とその多様性への畏敬・尊敬にある
  今は時代が複雑で読めない時代だからこそ、教育の哲学はシンプルで、それを表現するビジョンも基本的なものであることが大切だと思っています。その哲学とは、教育は人間存在自体とその生への畏敬・尊敬に基づくものであり、そのことは教育の前提あり目標でもあります。さらに言うと、そのことは同時に、ひとり一人の人間としての違いや多様性を畏敬・尊敬することを意味しています。ティム・インゴルトに倣って「教育は差異を個人/人格であることの源泉そのものとして育むのである。」とも言っていいでしょう。あるいは、ブルーナーが指摘したように、教育とは子どもたちひとり一人の「成長の可能性への畏敬」に基づくものであるとも言えるでしょう。
  現代のように、真偽不明の情報が溢れ、(たとえば、外国人排斥に見られるように)ひとり一人の人間としての差異や多様性が軽視され、その結果、人間同士(国家同士)のつながりが希薄になり、社会的な分断が急速に進みつつある時代だからこそ、もう一度、人間存在への畏敬を教育の根幹に位置付ける必要があると強く思います。
  (2)共に学び共に成長する
  教育とは単に知識の伝達やスキルの修得に収れんするものではありません。教育においても、教師と児童・学生の関係は、単に「教える」「教えられる」という関係を越えて、互いに自らを開き、互いの生を共有する関係であると思います。インゴルドの言葉を借りれば、「生の共有化(commoning)」と「学びの共者化(togethering)」が教育の要諦です。さらには教師と児童・学生との、児童・学生同士の「チーミング(teaming)」が教育成立の要件であると考えています。今の時代、このように名詞を動名詞に変換することで、教育のダイナミズムを復活させる必要があります。重ねて言えば、教師と児童・学生が互いの好奇心、感受性、そして開放性を共有することで、互いが成長する過程こそが、デューイの言うように「教育の過程」ではないでしょうか。そういう学校・大学でありたいと考えています。
  振り返れば、20年前の神戸親和大学の教育モットーは「共に生きることを学ぶ」で、インゴルド風に言えば「生を共有しつつあること」すなわち「共有化の下(under commoning)にあること」の重要性を訴えるものでした。最近の教育モットーも同様に「ともに学びともに成長する」ですし、創立60周年を迎える大学の教育モットーでも「ともに」が強調され、「ともに!答えは自分で見つけよう」となっています。
  (3)「両利き(ambidexterity)の教育」
  今後、2つの教育事業、いわゆる「両利きの教育」の必要性が高まると考えています。両利きの教育とは、これまでの伝統的な特色ある既存の教育をさらに「深化・発展」させることと、来る時代を読み新たな教育事業を「探索・開拓」するというものです。この観点から、学園では、つねにこれまでの強みをさらに「深化・発展」させると同時に、未来を拓く新規の教育に挑戦して参ります。具体的には、教育の質的向上、社会貢献、国際交流・貢献の3つの分野で両利きの教育を展開して参ります。
  3.親和学園の未来を拓くビジョン
   (1)ビジョン

@私たちが理想とする学園は、園児・生徒・学生ひとり一人が人としてその存在を畏敬される自由な学園、それゆえに、ひとり一人の園児・生徒・学生が未来の希望である学園となる

A学園は園児・生徒・学生と教職員が互いに尊敬し合い、共に学び共に成長する共同体となる。

B他者と異文化を理解し、人種・国籍に囚われず、他者と協働して社会的な課題の解決に努力する人を育成する学園となる。

C広い視野をもち、人と社会の為に生成AIをツールとして使いこなす知性とスキルをもつ人を育成すると学園となる

  (2)パーパス(社会的な存在意義)
  VUCAの高い、乱気流の時代においては、学園のパーパスは、一様ではありませんが、一義的には、民主的で平和な社会の担い手を育成することにあります。他者を尊敬し、異文化を尊重し、他者と協働して社会的な課題の解決に取組み、社会の未来を切り拓く人を育成することが、私たちの学園のパーパス(社会的な存在意義)です。
  (3)学園の教育を支える価値観
  私たちが親和教育を支える価値観としてもっとも重視するのは、自由、誠実、尊敬、信頼、協働、体験、多様性、包摂性、サステナビリティです。いずれも民主主義を構成する価値です。
  (4)ミッション
  私たち学園で働く教職員のミッションは、日々、園児・生徒・学生と誠実に向かい合い、その生と成長を共有・支援することです。そのために彼ら彼女らひとり一人との“always in human touch”を心がけます。いつでもどこでも学べるデジタル時代だからこそ、直に触れ合い・語り合い・学び合うことを大切にする学園でありたいと考えています。
  (5)古くて新しい教育アプローチ
  AI革命の時代、教育の在りようが根底から問われています。教育の内容・方法等々、変革が求められています。AIは何でもやってくれ、便利この上ないものです。それだけに、使い方によっては、生徒も学生も自分の頭を使う必要もなくなり、思考と判断をAIに任せ、ハラリの言うように、AIが文字通り「行為主体」になる危険性が大いにあります。
  私たちは「自分の身体を使って」、「自分から行動し」、「自分で考え判断する」主体性を取り戻す必要があると考えます。今、世界で「スロー・ルッキング(slow looking)」というプロジェクト(ハーバード大学教育大学院)が注目されていますが、このアプローチでは文字通り「ゆっくり見る」ことが重視されています。種々の事物や環境を多面的に見ること、他者と共に見ること、他者の意見を聴く、その印象・感想を比較・交換すること、そうして自分とは異なる意見を理解しより適切な判断をすること等々を学ぶ活動的・体験的なプロジェクトです。優れて教育的なプロジェクトで、現在、世界の何万人という児童・若者が理組んでいるそうです。(シャリー・ティッシュマン、北垣&新藤訳『スロー・ルッキング』による)
  情報があふれた社会であるからこそ、速い判断が重宝される社会であるからこそ、こうした「スロールッキンギ」のアプローチの意義は大きく、知識の伝達中心の授業の限界を打ち破る意味でも、有効なアプローチだと思います。
  (6)国際交流
  親和学園では、国際人の育成を目指す教育は建学の理念でもあり、今日まで継承・発展してきています。校祖もすでに明治時代に親和女学校にネイティブの英語教師を採用し、英語教育に注力していました。
  現在、この伝統を継承し、親和保育園・幼稚園から中高・大学まで国際交流(留学・研修)を推進しています。ほぼ10か国の学校園・大学と連携し、生徒・学生・教員の研修を奨励しています。特記すべきことは、最近、毎年のように、親和の高校から韓国・中国、アメリカ・カナダの大学に進学する生徒がでていることです。大学も、円安で厳しい状況ながらも、カナダ・イタリアでの教育研修を実施していますが、コロナ禍の時から、1年間の留学をアイルランドの国立コーク大学で実施。毎年、10名を超える学生が参加しています。
  現在は、国際交流をさらに発展すべく、発展の著しい東アジアの大学とも連携し交流を始めています。特に韓国の高麗大学と神戸親和大学の間で「デュアル・デグリー」の協定を結び、2026年度から4年間で2つの大学の学位が取得できる制度を構築します。また、6月には国際教育フォーラムをソウル大学、梨花女子大学と神戸親和大学との共同開催で行う予定です。大学では、さらにマレーシアのラーマン大学、ベトナムのホーチミン師範大学・ホーチミン体育大学、韓国の国立体育大学など、学生の多様なニーズに合わせて、東アジアの大学との交流を推進して参ります。
  今後も、私たちは世界の若者が集う機会を提供する学園を目指しています。
  4.結び
  以上、2026年を迎えるに当たり、世界の現状を概観した上で、学園として未来を切り拓くべく教育の原点を、その哲学・理念とパーパスを確認いたしました。この厳しい状況下、教職員一同、それぞれがリーダーシップを発揮するとともにチェンジメーカーとなり、未来に挑戦して参らなければならないと考えています。どうぞ今後とも親和学園の教育にご理解とご支援を賜りますようお願い申し上げます。
  末尾になりましたが、皆様のご健勝とご活躍を祈念申し上げます。

2026年 元旦
学校法人親和学園
      理事長    山根 耕平

  ※参考文献
  (1)ユヴァル・ノア・ハラリ、柴田裕之訳『NEXUS 情報の人類史(上・下』河出書房新社、2025年。
  (2)ティム・インゴルド、吉川不可知訳『教育とは何か』亜紀書房、2025年。
  (3)ジュリアーノ・ダ・エンポリ、林昌宏訳『ポピュリズムの仕掛人』白水社、2025年。
  (4)岩渕功一、『多様性とどう向き合うか』岩波新書、2025年。
  (5)シャリー・ティッシュマン、北垣憲仁&新藤浩伸訳『スロー・ルッキング』東京大学出版会、2025年。
  (6)ティム・インゴルド、奥野克己&宮崎幸子訳『人類学とは何か』亜紀書房、2020年。



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